子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

作品12.題材を選ぶことの大事さ

作品12.題材を選ぶことの大事さ

「87年版日本児童生徒文詩集」を読む

 月1回の民研(教育内容・作文)の9月例会は、日本作文の会で出
している、昨年1年間に綴られた全国の散文と詩が載っている本で
学習会を持った。今回は、そこで話題になった詩について書いてみ
たい。何か光るものの見方・考え方・表現の仕方がある詩である。
   かぜ   岩手県胞択郡金ケ崎町
           三ヶ尻小 一年 えんどうこうき
かぜって、見えるんだね。
みつびしせいしのけむりが
よこになったのよ。
こうていのさくらのはが
かけっこしたよ。
はしのしたのすすきのほが
左、右、左、右って、うごいて
みんなで、がっしょうしているみたいだよ。
ぬまの水も
ピカピカピカって
ひかつてだんだんとおくへ
つぎつぎに、いっちゃうよ。
かぜって、よく見えるんだね。
日本作文の会編(百合出版)より
 一年生の子が、かぜを見た。えんとつのけむりがよこになった時、さくらのはが動き、すすきのはがゆれ、ぬまの水も光ってとおくへいった。このような動きの一つ一つを、自分の眼で追いながら、この子は胸の高なりを覚えた。
 さくらのはは、かけっこであり、すすきのほは、がっしょうしているように見えた。ぬまの水の光りの波の動きも、しっかりとらえた。
 対象物をしっかり見る。まわりの動きにも、よく眼を注ぐ。見えたものが、どんなふうに心にうつったのか、感じた通りに表現する。
 詩は、見たとおりに写しとることが、感動の表現につながっていく。写実主義の基本のような詩だ。

現実をしっかり見つめる

   第十五惣宝丸 岩手県九戸郡種市町
       城内小 五年 坂本絵理子
三人が死亡、十三人が行方不明
海が荒れ、
波が高いのに出漁して沈没した。
こんな日にイワシをとってくれば
高く売れる。
そう思ったのだろう。
キロ、たったの十円。
ふだん、こんなに安いから
無理をしてしまった。
命と引きかえにしてしまった。
三十代、四十代の働きざかり。
大黒柱。
テレピはニュースで、
新聞は大きな見出しで
「第十五惣宝丸」「第十五惣宝丸」
といい続けている。
沈没してから日がたつ。
冷たい海の底だが、
一人でもたすかってほしい。
イワシも
命も
安すぎる。
日本は決して豊かではない。
生活が貧しいから無理をするのだ。
日本は貧しい。
  日本作文の会編(百合出版)より

 肉声が伝わるように、改行もそのまま引用したが、ここには、東京の墨田区では見ることのできない、魚を追い求める人の生活がある。このような詩をじっくり読み味わって、日本の現実のある断面を、子どもと一緒に考え合うのも大事だ。
(ア)この詩を読んで、一番心に残ったことは何か。
(イ)死亡や行方不明の人々は、なぜ、海が荒れているのに出漁したのでしょうか。
(ウ)イワシも、命も安すぎると、なぜ、考えたのでしょう。
(エ)日本は貧しいと、結んでいるがなぜでしょう。

 このような設問を柱にして、子ども違と話し合えば、いろいろな角度から意見が出されるにちがいない。
 作者のすばらしい所は、身近な所で起きた悲しい出来事をすばやくとらえた所。その原因をするどく分析している所。テレピのニュースや新聞の見出しにも注目している。日本は豊かになったという作られた虚像に、小学校五年生で批判している。しかも、自分の一番身近な地域現実の中で、人々とのくらしの中で、人間的真実に接近して、心から訴えたものだ。
 子ども達の日々のくらしの中でも、おかしいなあ、変だなあと疑問に思うことがあったら、このように、詩に綴らせてみよう。詩のノートのようなものを持たせ、鑑賞した詩はていねいに視写させて、1~2行、感想を書かせてみて、リズムのある詩は、暗誦させるようにしてもよい。
1987年12月8日

『えらぶこと』の大切さ

 日々の生活の中で感動したことを、ていねいに思い出して書かせることが、文章表現指導の基本である。現在使われている教科書からは、その基本の表現指導をする単元がなくなってしまった。何かの文学作品を学習したあとに、「ゴンの死」をどう思うかを考えながら続きを書いてみようなどと言う「関連作文」になってしまったり、「教室の時計」になったつもりで、このクラスの様子を想像しながら書いてみようなどという「想像作文」を書かせたりしている。子供達の五官を通して、感動したことを、出来事の順に思い出して書いていくことが、1番優しい方法であり、ものの見方・考え方がしっかり育っていけるのだ。少なくても、10年以上前までの教科書は、作文単元が教科書にも扱われていた。つまり、子ども自らが題材を「えらぶ」ことができない作文になってしまっているのだ。
2011.11.16

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