子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

日記から子どもの願いを知る

日記から子どもの願いを知る

しんばいしたのにおこられた 4/13〈木〉
「五時半頃、帰ってくるからね。」
とお母さんに言われたけど、六時になっても帰ってこない、六時五分になった。ぼくは、しんぱいになってきた。空もくらくなってきた。ぼくは、ベランダに出て、お母さんの帰りを持っていた。六時二十分、空は、さっきよりくらい。月の色も黄色く光っている。ぼくは、しんばいが高まってきた。六時三十分、ぼくと弟は、けん道に行く時間です。ぼくは、心配でたまりません。その時、お母さんが帰ってきました。ぼくは、安心しました。お母さんが、いきなりおこりました。
「なにやってんの.もしお母さんがおくれて帰っても、自分で着がえて行けって言ったでしょう。」
と言った。
(ぼくは、そんなこと聞いたっけ。)
と思いました。それから、すぐきがえてけん道に行きました。ぼくが、けん道から掃って、この日記のとちゅうまで書いたのを、お母さんが見ました。お母さんは、ぼくと弟に、
「さっきは、ごめんね。しんぱいしてくれたの。」
とあやまってくれた。

 五年生の担任になり、一週間たった4月13日に、梅野幸彦君は書いてきた。ほめたいことが、いっぱい書かれている。題名のつけ方がうまい。一番心の中に強く残り、書きたかった主題が、この短い言葉に言い尽くされている。五時半頃婦ってくるという約束をきちんと覚えていて、六時になっても掃ってこないので、気になった。六時五分という時刻を書いている所にも、値うちがある。
 六時という時刻から、五分間までの間に、二人の兄弟は、じっとして母親の帰りを待っていたにちがいない。それが五分間たち、とうとう行動に出た。ベランダに出れば、母親の姿が少しでも早く、確認できるにちがいないと考えた。空の色がくらくなってきたと、まわりのようすの変化に気がついている。おそくなったと書かず、空の色の変化で、それを表していることも値うちがる。その待の不安な気持ちが、その描写で伝わってくる。そのベランダに出てずっと、タやみせまる外の景色の中に、母親の姿を追い求めている。その時間が、30分間続いていたということが、次の時刻が書きこまれていることでわかる。
 ふたたび、空を見上げて、うすぐらさがさらに暗くなってきたことに気がつく。月の色も黄色く光ってきたのだから、かなり暗くなってきたのであろうことも、想像できる。だから心配は、ずっと高まってくる。6時30分が、剣道に行く時間ということも知っているから、説明を入れている。
 その時という、接続詞の使い方に、急に帰ってきたということがわかる。梅野君兄弟が、こんなにも心配して、母親の掃りを待っていたのに、無残にもその気持ちは、打ち砕かれた。母親の怒りに、大いに不満を持ちながらも、
(そんなこと聞いたっけ。)
とロに出せず、心の中で思いながら、剣道へ向かう。

日記を書いて得をした

 剣道から帰って、作者はずっと不満を持っており、その日の中で一番心の中に残ったことは、この事だと思って日記に向かった。心配して待っていて、お母さんが帰って来て、おこられた所までを書いたことがわかる。おそらく母親は、わるかったなあ、子どものやさしい心持ちをふみにじってと思ったから、心よりあやまった。子どもの文を読み、素直にあやまれるこの母親もすてきである。この母親の言葉によって、もやもやしていた事はすっきりした。だから最後に、そのことをきちんと書いている。
 梅野君は、日記を書いて得をしたわけだ。母親も、子どもの日記を見なければ、こんな親子のふれあいは、出来ない。こんなにやさしい心を持つ子である担任になっていることに、誇りを持つ。
三十人の子ども達は、一週間に2~3回提出してくれる.子どもの姿が見えにくくなったという。
 子どもは、しなやかで、いつも生き生き動いている。
1989年6月1日

 昨日第5回国分一太郎「教育」と文学」研究・学習会を池袋小で開いた。遠くは、山形・福島からも数人参加してくださった。36人の参加者であった。午前中に報告された今井成司さんは、あと1年で現職を終える前に、文章を書く大切さを話された。日本作文の会の東京大会の中心になって、大会を成功させた功労者である。大会を終えて、何日か後に、お父様を亡くされたことを文章に書いたものを話された。それは、父親の元気だった頃を重ねながらの、生活綴方であった。また、ご自分が、小学生6年生の頃の日記の文章を紹介された。その中には、当時の子供達の生活が、しっかりと刻み込まれていた。当時の担任の先生は、ただ書かせるだけのようであったが、「書く」という事実がその後の生活に大きくプラスになっているという話であった。この大切な日記指導をする教師が、現場からかなり減ってきた。忙しくてそのような時間がとれないというのだ。
2011.11.20

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