子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

綴り方のみのり多い指導のために

綴り方のみのり多い指導のために

目次

序 五つの柱のこと 

Ⅰ 書きたい気持ちをおこさせるために、

    1 話したがり屋、聞きたがり屋に
    2 確かな日本語の指導を
    3 こんなことに心を動かして
    4 題材を紹介することで
    5 生活勉強を重視する

Ⅱ 真実な表現をさせるために

    1 おもしろかったことも、くやしかったことも
    2 書きたくてたまらないことを
    3 強く心を動かされたことを
    4 事実をありのままに
    5 筋道をたてて書くように
    6 現象から本質へ

Ⅲ 的確・具象的な表現をさせるために

    1 短い文章から
    2 よく思い出して
    3 よく描写する=様子がようわかるように   
    4 説明も入れて
    5 文法、表記など
    6 過去形の中に現在形を
    7 過去形の中に説明を
    8 説明的文章の中に具体的な事実を
    9 説明と描写を使いこなして

Ⅳ 効果的な表現をさせるために

    1 したとおり、あったとおりに
    2 構想を考えて
    3 表現を工夫して
    4 意識的に構想を立てさせる
    5 手紙ふう、日記ふう、問答ふうに
    6 言葉や文を選んで

Ⅴ より意識的な表現をさせるために

    1 ただ、できごとを書くだけでなく
    2 今も、はっきり思い出せることを
    3 教科などで学んだことを生かして
    4 人間存在の本質的追求として

序 五つの柱のこと

 この「綴り方のみのり多い指導のために」は、これから小学生の綴り方・作文指導をしていくときの手引きとしてまとめた。それで、できるだけ使いやすくするため、全体を五つの柱に分け、その五つの内容を指導していく場合の学年的配慮も考えた。各項目は、低学年を低、中学年を中、高学年を高としてあるのは、おおよその指導段階と考えてよい。
 各項目を読んでいただく前に、まずこの五つの柱の趣旨を示しておく。

Ⅰ 書きたい気持ちを起こさせるために

 ここには、綴り方・作文指導をしていくときの前提になる学級経営のことや、文字指導のこと、どうしても文章表現をしたいと思わせるような意欲を、子どもたちの内に持たせていくための指導(表現意欲喚起の指導)などの内容や方法について盛り込んだ。

Ⅱ 真実な表現をさせるために

 ここには、子どもたちが見たり、聞いたりしたりした事実や、現象、心を揺り動かされた事柄を、事実と感動に裏付けられたコトバで書き綴らせていく指導のこと。また、ほんとうにあったことのなかから、特に自己との関わりでどのような題材を選び出していくのかということ。事実や自分の考え、感じをよく思い出しながら、ねうちのあることを書かせていく指導などについて盛り込んだ。

Ⅲ 的確・具体的な表現をさせるために

 ここでは、できごとやものごとを、よく話が通るように、より的確に綴らせていくための指導の内容や方法について盛り込んだ。
 的確、具象的に書き綴らせるということでは、描写や説明の仕方という文章表現技術についての指導が中心的なものとしてすえられてくる。また、日本語による表現についての指導として、文法や、表記の指導も見落とすことはできない。それらをふまえて、この項を構成した。

Ⅳ 効果的な表現をさせるために

 ここには、題材のいかんによって、構成を考えたり、豊かな文章表現をさせていくための指導の内容や方法を盛り込んだ。一つの事柄をどのような組み立てにし、どう表現していけばよいのか、より読者を感銘させるような文章を書き綴らせていくための指導の内容や方法など。
 効果的な表現ということでは、ある日、ある時、ある所であった一回限りのことを、出来事が起こった順序に書き綴るのがよいのか、それとも、もっとまとめて、何度かにわたる事実をもとにして説明風に書き綴るのがよいのか、あるときには、説明風に書き綴る中に具体的事実をおりまぜて書き綴るのがよいのか考えさせること。文章の前後を転倒させて書き綴ることの効果をとらえさせ、その書き綴り方にも慣れさせていくこと。るいはまた回答体や手紙風に書き綴ること、日記風に書き綴ったり省略することも内容になってくる。

Ⅴ より意識的な表現をさせるために

 ここには、綴り方=作文を書き綴ることと、物事の本質への追究、つまり必然性・普遍性の追求を目指す文章表現指導の内容や方法に関わることを盛り込んだ。今までよりももっと意識的な題材を選び出させる指導、テーマのある文章を書き綴らせる指導、教科教育で学んだことと、実生活とのかかわりを文章表現にどう生かしていくかについてもふれている。

Ⅰ 書きたい気持ちをおこさせるために

1 話したがり屋、聞きたがり屋に 低 

 自然成長的に、子どもたちを書くようにさせようなどと待っていても、すべての子どもたちが書こうと思うようにはならない。書く目的を持たせるようにするなどといっても、そう簡単に理屈通りにはいかない。子どもたちの自然な表現要求を大事にしながら、表現・創造の活動が、学級集団のみんなを結びつけみんなが表現したかいがあるように、その喜びをともにすることができるようにすることが大切である。
①文章表現以前の学級経営として、子どもたちを、よいことも悪いことも、恥ずかしいことも隠さず話すようにすること。その対応である聞くことにも積極的に参加できる子にしていくこと。そのためには、出席をとった後などに自然な話し合いのできるような学級を作ることである。また、これと同時に、他人の失敗を笑わないようにさせる。
②子どもたちが話したことを、教師が文章コトバにかえて、文集などに盛り込み、みんなの前で読んでやったり、父母にも読んでもらえるようにする。
③子どもが話したときにも、文集を発行するときにも、教師がその中にある良さを見つけて、ほめること。もう少しというところを励ましてやること。
④子どもたちが話したことについて、学級ばかりでなく、家庭でも、こんなことを話してはいけないなどと決して言わないように、普段から作っていくこと。
⑤子どもが話したことが、教師や父母や友人に受け止められ、それがすぐにかえってくるような学級になるように努力すること。 

2 確かな日本語の指導を 低 

 文章を書きたいという気持ちをおこさせるためには、どの子にも日本の文字を獲得させてやることである。
 しかも、わたしたちの日本には、かな文字がある。これは一字が1音を表す文字で、世界のどの国にもまして、文章が書きやすい。この文字を覚えれば、子どもたちは、書きたいことをどんどん書くし、書けば今度は書きたい気持ちがいっそう大きくなる。やがてやさしい漢字を覚えるまでは、このカナ文字をうんと大切にする。
 その指導法は、次のようにする。
①一年生の子どもについていえば、かな文字を獲得させてやることである。その指導としては、次のような段階を考えていくようにするとよい。
◎前期の段階(四・五月)
 五十音図の中にある四十四文字を組み合わせて作った単語を通じて、一つ一つの文字と、それが表す音を正確に教えること。
◎中期の段階(六月以降)
 アイウエオカキ・・・などの清音に習熟してきたら、清音に対比させながら濁音を正確に教えていくこと。
◎後期の段階(七月以降)
 短い音が抵抗なしに読み書きできるようになった後、促音、長音、拗音、拗長音という複雑な音節の文字化について教えていくこと。は、を、への意識化もさせていく。
②また、確かな日本語を指導していくということでは、書き綴る指導の中だけによって行おうなどと考えず、体系的な日本語指導をていねいにしていく。そのことによっても子どもたちに、確かな日本語を獲得させていく。

3 こんなことに心を動かして 中 

「無感動の子が最近多くなった」とよくいわれる。これにはただちにうなずけないものがあるが、そうであるなら、なおのこと、そんな子たちに感動の体を意識させる仕事が教師の仕事として重要になる。
 綴り方=作文が子どもの心を生き生きと動かす動力の役目をすることをここでは確認したいと思う。
 子どもたちの書いた作品を、教室で鑑賞すると決まって「そうそう、僕ね、・・・」と、関連した話が出たり、「僕も、そういうことあったよ。」などという話が出る。つまり、子どもたちは心を動かして日々生活している。ただ、それを意識させないで放置しているので、忘れ去っているのである。 作品鑑賞は、こういう子どもたちに、もう一度、自分の心の動きを意識してとらえさせる働きをもっている。だから教室では、できるだけ多くの作品を用意して、子どもたちに読ませるようにする。
「そんなことなら僕にもかけるよ。」という発言は、表現の契機を一つつかんだことになるからである。こうしてつかむ表現の契機は、さまざまあるが中学年では主として、次のようなものが考えられる。
①「こんなことがあったんだ。」と、過去に経験した事実を書きたくなるその事実。
②「そうだったのか」と気づいたり、発見したことが書きたくなる、その発見や驚き。
③喜んだり、悲しんだり、怒ったりしたことを書きたくなるその喜怒哀楽
④「おかしいな」「なぜかな」という疑問を持ってそれが書きたくなる、その疑問や問題意識。
⑤その他、願いや要求
 このようなところに心を動かして書き綴らせるようにしたい。

4 題材を紹介することで 中 

 学級の子どもたちの書く内容に偏りがあったとき、もっと多方面にわたって取材させる指導をすることで、書きたいという意欲を起こさせることができる。
 中学年の場合は、どこからどこまでという取材の範囲が、そのまま「何を題材にするか」になるような指導にとどめる。題材を紹介する実際の指導には、
①「題材一覧表」を教室の壁面に表示する方法
 
自然  虫取りに行っ 道路工事の けんかをし おまつりにいて…
(まさひろ)
社会  道路工事のおじさんを見て…(ひろし)
人間  けんかをしたこと…(ゆうじ)
文化  お祭りに行って…(なおこ)
 はじめは空欄にしておき、子どもたちが実際に綴り方=作文を書いたら、そのかかれた事柄を書き込んでいく。そして、みんなで表を見ながら、「こういうことも作文の種になるんだな」と、題材が多方面にわたるように指導していく。
 題材に偏りがあり、空欄が多くなれば、「ここのところ、飯井種を見つけて書いてほしいな」と指導する。
 また、自然・社会・人間・文化の各欄をさらに詳しく分類して、たとえば、社会の欄なら「家・近所」「学校」「仕事・手伝い」などとすれば、いっそう子どもたちの取材傾向がはっきりして、この指導の効果を上げることができる。
②「取材ノート」を子どもたちに持たせる方法
 ①の表を印刷して、ノートの裏などに貼らせ子どもたち 銘々に、書きたい題材を書き込ませる。そして、麻、判別に各自の取材状況を発表させながら、表現意欲を盛んにしていくのである。

5 生活勉強を重視する 高 

 教科書から、あるいは教科書を通じて学ぶこととあわせて、なまの生活からじかに学ばせることを大事にする。 生活者であると同時に学習者である子どもは、文化の遺産・到達(科学や芸術)から学ぶのと一緒に、なまの現実・事実(生活)からさまざまなものを学んで発達していく綴り方教育では、このうち現実から学ぶことを特に大切にする。
 なまの人間、自然・社会の事象、そこでの真実・美が語り合われるような教室において、はじめて生活者としての子どもが育ってくるのである。そういう子どもたちであって初めてほかの人間と心を通わせるような作品を生み出す意欲を持つ。生活勉強を重視する教室を作り出す方法は、いくつかある。
①きのう父が一ヶ月遅れでボーナスをもらってきたこと。けさ家の前の道ばたで初めてふきのとうを見つけたこと。今日は空港反対闘争があるらしく、朝早くから機動隊員が道路をかためていたことなど、つい最近あったこと、したことを話し合う時間をとる。
②週一度くらい、この頃思い続け、考え続けていることなどを話し合う機会をもうける。
③①と②でとらえ、考え続けていることを文章として随時綴っていく日記を、まいにち、あるいは何日かおきに書き綴らせていく。そこで生まれた作品を読んでやったり、回覧したり、文集にしたりして紹介する。
④人間のさまざまな暮らしの違い、人間として共通に持っている願いなど、さまざまな人間の生き方の具体的な姿を学級の人間及び人間関係に注目して示していく。
⑤教室に閉じこもらず、広く人間、自然の世界へ、子供らとともに学びにいく機会を作る。

Ⅱ 真実な表現をさせるために

1おもしろかったことも、くやしかったことも 低 

 綴り方=作文を書かせると、いつも野球をしたことしか書かない子がいたり、どこかへ出かけたことしか書かない子がいたりする。また、学級全体を見ると、生き物のことに偏りすぎているというような場合もある。この傾向を一日も早く打破するためには、次のような方法をとる。すなわち、「家や近所や学校であったことの中から。家族や友達や先生とのかかわりの中から、あるいはまた、見知っている人、見知らぬ人とのかかわりの中から」
①おもしろかったこと
②くやしかったこと
③めずらしかったこと
④かわいいとか、不思議だと思ったこと
などを書き綴らせていくようにする。

①「この次はおもしろかったことを書いてみよう。」いうような呼びかけをし、日をおいて書かせる。この場合、おもしろかったことよりも、くやしかったことを書きたいというこのいるときには、それでもよいようにする。
②ほかの学級や学校で生まれた、さまざまな題材で書き綴られている作品を読んでやった後、同じような経験がなかったかと呼びかけ、思いおこしをさせることをする。
③見たことや聞いたことやしたことなどを、学級の中で話させ、自分たちの周りにもそんなことがあることに気づかせていく。
④文集や黒板に、誰が、どんなことを書いたのかという題材表を紹介してやる。
⑤今までかかれていなかった題材で書き綴ったとき、うんとほめてやるようにする。

2書きたくてたまらないことを 低 

 「作文を書きなさい」といわれるから、あったことをそのまま書いているというのが低学年の子どもの実情であろう。このような子どもたちであるから、はじめから「書きたくてたまらないことを書きなさい。」などといってもそんなことを書けるものではない。だから、ある日、ある時、あるところであったできごとをあった通りに書かせていくことでよい。そのうえで、ある日、ある時、ある所であったあのできごとをぜひ書きたいという気持ちを持たせていくようにする。
 次いで書きたくてたまらないことを持たせるようにするための指導としては、
①次にあげるイからへのようなことを示し「このようなことで書くことはないか。」とおりにふれて呼びかけるようにする。
イ 先生にむかって一番言いたいこと        
ロ にむかって一番言いたいこと
ハ 「きのうのけんかでは、自分の方が正しかったのだ。」というよ うに、事実をはっきりわかってもらいたいと言うこと
ニ 新しく気づいたり発見したりして、みんなに教えたくてたまらな いこと
ホ とてもうれしかったこと、腹が立ったこと、悲しかったことなど で、強く心を動かしたこと
へ 人の話やテレビなどから教えられて初めてわかったこと

②学級内やほかの学級で生まれたねらいのある作品を読 みあい、そこにかかれているねらいをとらえさせていくこと。 
③文集などを作るとき、その作品は、どのような気持ちからかかれているのかを、見出しの部分や、作品の後ろに示してやること。

3強く心を動かされたことを 中 

 書きたいことをしっかりつかんでいる子は、綴り方=作文の時間をいやがらない。だから「このことを書くんだ。」という意識を明確に持たせる指導が大切になってくる。そのためには「作文の時間だから書きなさい。」式の準備なしの書かせ方や、自習時間に綴り方=作文を書かせるようなことをしてはならない。
 少なくとも、綴り方を書かせる一週間前には、「来週は作文を書きますから、よい作文の種を集めておきなさい。」と予告をする。そして朝の会などを利用し、参考作品を読んでやって、同じような経験から題材を見つけ出させたら、子どもたちの取材状況を報告させて、内容についての助言をしたりする。
 こうして、よい綴り方の種になる「強く心を動かされたこと」をつかませるようにしていく。
 教室の後ろの黒板や壁面を利用し、綴り方の種集めの表を掲示し、綴り方の種を見つけたら書き込ませるのも一つの方法である。この場合、「手伝い」などと書き込ませず、「母の帰りが遅かったので・・・」と具体的な内容について書かせるようにする。こうすると題材が明確になってよい。また書き込まれた表を見ながら「山田君は・・・に強く心を動かしたんですね。」と、子どもたちに紹介してやることもできる。これも題材を意識化させる方法の一つである。
 中学年の子どもたちには、特に人間とのかかわりに注目させ、
①家の人と一緒に働いたこと。
②父や母の生活で気づいたこと
③家の人がよく言っていること、していることでそのわけがわかったこと。
④人に喜ばれたり、人に親切にされたりしてうれしかったこと
⑤友達のことで強く心に残っていること。
などについて書き込ませていく。

4事実をありのままに 中 

 一口に事実をありのままに書くと言っても、それは容易なことではない。はじめにその事実を思い出さなければならない。「思い出す」と言っても、何を思い出せばよいのかわからない。とすれば、まずそこから出発して子どもたちを導かなければならない。つまり、そのときの「もの」や「こと」や「ものごと」について、
(1)様子・姿・形・性質・動き・関係などをよく思い出させる。
(2)また、そのときの事件や、事実に対して、
① 感情も含めて、自分のとった態度
② 他人のとった態度
③ 自他の関係、ぶつかり合い
④ 自他のとった行動
などをよく思い出して書かせるようにしなければならない。もちろん、これらのことを、一度に子どもたちに要求するのではない。
「色や形をよく思い出して書きなさい。」とか「話している人の様子をよく思い出して書きなさい。」などと一時間一時間の授業の中で、ていねいに指導していく。事実をありのままに書かせるには、そうした細かな指導の積み重ねが必要なのである。
 前項の「強く心を動かされたことを」で述べたような取材の過程をへて、実際の記述に入ったならば「書いては読み、読んでは思い出して書き続けろ」と子どもたちに指示して書かせるようにする。
★ 僕は「ただいま」と言って、玄関の戸を開けました。(そのとき、赤い小さなくつと、女の人のくつがあったのだったな。)玄関には、赤い小さなくつと、女の人のくつがあ りました。 (そうだ。客間の方で笑い声がしてたな。) 客間の方で・・・というように立ち止まりながら思い出さ せるのである。何をよく思い出すかは、そのときのねらい による。こうして事実をありのままに書く力をつけていく。

5筋道をたてて書くように  高 

 自分の叙述したいこと、訴えたいこと、みんなにぜひともわかってもらいたいことを、その願い通りに理解し、納得してもらうためには、文章の筋道がしっかりしていなければならない。
 筋の通った述べ立て方、筋の通った意見の述べ方、主張の仕方が重要になってくる。
 もう少し細かくいえば、
① 事実と事実との関係
② 事実と考えとの関係
③ 考えと考えとの関係
 これらを、しっかりと確かめ組み立てて、文章を書く力を、子どもたちのものにしてやらなければならない。
 そのための指導として、次のような方法が考えられる。

① 書く前に、考えや事実の一つ一つのかたまりをまとめ、「この事柄と、この事柄は、どんなつなぎ言葉でつながるか。」という形でしっかりと確かめさせ、その関係をつかむようにさせる。
② 書いた後で、あるいは書きながら、「前と後の食い違いはないか」「続き具合はどうか」「つなぎ言葉はこれでよいか」「文の意味が、読み手にわかりにくくなっていないか」と見直してみるようにさせる。
 これらの力の基本となるのは、事実に裏打ちされた、自分のものになった言葉で書くということである。したがって、「言葉の中身は何か。」という、使われている言葉に対する厳しい吟味が、常に大事にされなければならない。
 なお、筋道のしっかりした文章を書けるようにするために、読み方教育における「文」の読み取り方、段落指導が重要であることはいうまでもない。

6現象から本質へ 高

 わたしたちは、子どもたちに「自分の心を激しく揺さぶった物事」あるいは、「自分の心に強く残っているものごと」を書かせる。そこには、必ずその子なりの真実があるからである。
 そのことをふまえて、高学年では、さらにより客観的で、説得力のある文章を書くようにさせたい。そのために、何よりも「一つの事実だけで結論づけない」ということを大事にしたい。
 子どもたちには、次のような呼びかけをしながら具体的な作品に即して、わからせていく。
① 「考えのもとになった証拠を、いくつも書こう。」
② 「他人とかかわりのある自分のことを書こう。」
③ 「長い間の経験から、こうだと考えたことを書こう。」
④ 「世の中のことと、自分の身近なことを結びつけて書こう。」
 また、読み手の心を打ち、人々を説得する力がある文章というものには、その具体の中に、必ず読み手を共通に引きつける客観性、一般性、普遍性を持っているはずである。
 さらに、他の教科、たとえば、理科の実験などで結論を導き出すための手だてなどを、思い起こさせ、そこから学ばせていくことも大事にしたい。
 以上のような指導の中で、子どもたちは、自分の意見をすぐに固定してしまわない、判断を急がない態度を身につけていく。そして、そのことは、やがて本質の表れである著しい現象をとらえて、綴り方=作文を書く力を、子どもたちのものにしていく。

Ⅲ 的確、具象的な表現をさせるために

1短い文章から 低 

低学年の書き始めは、短くてもよい。書いていることが読み手にわかるように書かせること。そのために、
① 誰が、いつ、どこで、誰と、何をしたのかを書かせること。
 子どもたちが書き綴ってきた文章をよく読んでみると、「誰がしたのか」「いつのことなのか」「どこでしたのか」「誰としたのか」「何をしたのか」ということを、しっかり書き込んでいないものが多い。こんな時、「これはいつのことなのでしょうね。」「どこでしたのでしょうね。」という呼びかけをしてやりながら、「確かに、この文章ではそれがわからないな。」と自覚させていく。
② 。(マル)、(テン)「」(カギカッコ)を正しく使えるようにさせる。
 この場合の指導としては、ある時は文章を読ませるとき、「きのう(テン)おかあさんとふたりで(テン)せんたくをしました(マル)という風に、、声に出してマル、テン、カギカッコを読ませるようにしたり、。や、のないところは教師が、区切らずに苦しそうに読んでみたりするのもよい。
③さらにまた、的確ということでは、正しい日本のコトバを使うように自覚させたり、正しい文字で書けるようにさせることも大事にしなければならない。そのために、言葉の使い方を単文を作らせることで訓練させたり、書き上げた作品を清書させたりすることなどもよい。作品を読んでやるときに、「このコトバの使い方は上手です  ね。」「ここのコトバの使い方は、もう少し工夫するといいですね。」といって自覚させていく。

2よく思い出して 低  中 

 綴り方=作文を書かせるとき、過去にあったで忌避ーごとを、できるだけ詳しく思い出しながら書かせる。ものごとのとらえ直しをさせながら、ものやことをしっかりとらえさせるために、これをさせる。
 そのためには、つね日頃の生活の中で、よく目を使ってみること、耳で聞くこと、鼻を使ってかぐこと、手で触ってみることをさかんにさせるような指導をしていかなければならない。この場合、今原稿用紙にむかって書き始めようとする子どもたちに、「目を使ってかけ」「耳を使ってかけ」「手で触ってかけ」などという呼びかけは、決してしないようにする。
 子どもが文章を書くというとき、つね日頃の生活の中でとらえてきたことを書き綴るのであって、書くときになってとらえるものではないからである。つまり、つね日頃の生活の中で。目・耳・鼻・手などを使って、ものごとをとらえる指導をしていくことが大事なのである。だから、書き上げられた作品を読んでやりながら「ここは、いつもよく目を使っていたので、こう書けたのですね。」だとか、「ここのところは、したでよく味わうことをしていたので、こう書けたのですね。」「ここのところは、手で触って確かめていますね。」と指導する。
 あるいはまた、子どもたちが文章を書き綴るときのことを
★ 「(きょうはセキセイインコのひなのことを書こう。そうだ、はじめは、パジャマに着替えて、すばこの所へ行ったのだった。そうだ、そこから書こう。)と、思い起こして、原稿用紙にこう書きつけていく。ぼくは、パジャマに着替えてからすばこの所へ行った。・・・」
 このようなプリントを作り、声に出して読んでやる。

3よく描写する=様子がよくわかるように  中 

 現象や事件や行動が、どう移り変わっていったのか、その様子は、どうであったのかということがよくわかるような描写をするようにさせる。
 そのためには、ものごとの存在、形、状態、性質、動き、関係などをいちいち「はじめはどうだったのか、どうしたのだったか。」「それから、どうなったのだったか。」「そのときどんな様子だったのか。」「そこでどうしたのだったか。」「どう考えたのだったか。」「どう感じたのだったか。」と、「部分部分をよく思い起こすようにさせなければならない。想起・表象・再生的想像の心の働きを、正しく、活発にさせなければならない。
 そして、その指導としては、次のような方法を考えていく。 
①作品を鑑賞するときには、その場所(風景・広さ・狭さ・静けさ)・その人(顔つき・目つき・動作・会話・服装)・そのもの(形・大きさ・動き・音・色・性質)そのこと(動き・変化・関係)がわかるように書けているところを読んだり、書き写したりさせて意識させる。
②教師が読み聞かせるときに、よいところに感心したり、ほめたりしながら読む。
③よく書けている作品と、よく書けていない作品とを印刷して子どもたちに示す。これと対比して読ませながら、よく書けているところ、書けていないところをつかませる。
④作品に赤ペンを入れるときにも、描写のよい部分に子どもの目がいくようにする。
 この指導をしていくとき、子どもたちは、必要以上に描写をすることが多くある。しかし、初めのうちはこれでよい。徐々に、必要な部分を事細かに描写するのだとわからせていけばよい。

4 説明も入れて 低  中 

 子どもたちが、「先生に読まれるものと思って書くもの」「学級のみんなに読まれるつもりで書くもの」を次第に、もっと高次なところへ引き上げてやらなければならない。
 ということは、文章はやがて「不特定多数の人々」を対象としてかかれなければならないということも教えていくということである。
 しかし、はじめのうちは、「読み手」を先生や級友と予想させることから始めるようにする。この指導をもう少し具体的にいうならば次のようになる。
① 子どもたちの書く文章の初めは、
★ ぼくは、夏休みにいなかへ行きました。けんちゃんと魚つりをし ました。・・・というようなものだ。

 このような文章を書いたときには、「いなかというのは、どこのことをいうのか。」「けんちゃんというのは、どのような子なのか。」ということを、誰にでもわかるように、いつ、どこ、どんなという説明を入れて書くように指導がなされなければならない。
② また、子どもたちが、次のような文章を書いたときには、説明が よく書けている傍線の部分に目がいくようにほめてやるようにす  る。
★ 舞台に出るときに、おでこにつばをつけました。それは、あがらないようにするおまじないだと、お母さんが教えてくれたからです。
③ 作品を読むときに、子ども自身でも、「~した。」「~  しま した。」という文は、経験を思い起こして書いたものであり、「~ だ。」「~です。」で終わる文は、ものごとを説明している文であ るという。この違いに気づくような指導もしていかなければならな い。これは、あくまでも、すでに書かれている作品を用いて行うの がよい。

5文法・表記など 低 中 

 的確な文章は、日本語を正しく豊かに駆使して書かれた文章であり、国語科指導の枠で、日本語のきまりをきちんと指導することが前提になることはいうまでもない。文章を的確に書き綴るということでは、指導要領にいう「言葉に関する事項」のようなものを扱っただけでは十分な力にならない。文法指導のためには、「日本語」シリーズ(麦書房)が参考になるが、綴り方=作文指導を通しても、日本語の使い方を取り上げて指導することは大事である。その指導例をこの後に示してみよう。
① コトバの指導(誤った言葉遣いや、誤った漢字や誤った送りがな の使い方を指導する。)
② 文の指導(ひとえ文に主語のないもの。ひとえ文に主語が2つあ るもの。あるいはまた、接続詞、接続助詞が 不適当なもの。また★「ぼくは、きのう、自転車に乗ってぶつかって、転んで、ハンドル が曲がってしまった。」というような文章を取り上げ、これはあわ せ文にはならないということも指導していく。)
③ 表記の指導(低学年では、テンやマルを指導してきたが、中学年 では会話の部分にカギカッコをつけることや、場面の移り変わりに は段落をつけることなどを指導していく。)
 子どもたちが書き綴った文章を読み、日本語の誤った使い方があれば、作品に赤ペンを入れて示唆してやったり、あるいはまた、文集に作り、それを使って一斉授業の中で示唆していくようにするとよい。
また、中学年の後半になるまでには、書き上げた作品を自分自身で推考しマル、テン、カギカッコ、誤字、脱字、段落などの誤りを訂正できるような力をつけてやらなければならない。

6 過去形の中に現在形を  高 

 子どもたちが、あるものごとにふれ、それに心を動かしたとき、ある部分は静的に受け止め、ある部分は動的にとらえることがある。それを受け止めたその気持ちで表現できるようにしてやりたい。そのためには、次のような書き綴り方ができるような力をつけてやることである。
★二階の窓を開けた。おじさんのいそがしそうに歩いてくる姿が見えた。首をふりふり、とびはねでもするように、はや足でむかってくる。窓から手をふっているぼくに気づいたらしく、大きく手をふっている。
 この文章は、「~だった。」と書く中に、「~いる。」という書き方に力を入れることで、その部分を現在目の前でおこっているようにしている。
 この表現は、過去にあったことをあったままに、「~だった。」「~ました。」と書き綴っていくものよりも高度になってくるが、高学年では、このような描写を意識的にさせるようにしたい。このことがまた、事実をより的確に、しかも具体的に表現していることになるからである。
 この指導としては、

① すでに書かれている作品を用いて指導するのが、子どもにとって は具体的でわかりやすい。つまり、「~だった。」「~ましたと過 去形だけで表現されたものと、部分に、「~いる。」「~ある。」 と現在形を入れて書き綴られているものとの相違に気づかせ、その よさをとらえさせていくのである。
② あるいはまた、目の前に起こっている出来事を現在形を用いて、 コトバでスケッチする方法で練習させたり、過去形で書き綴られて いる文章の部分を現在形に書き改めさせるような練習方法を用いな がら、このような表現ができるようにしていく。

7 過去形の中に説明を  高  

★まだチャイムも鳴らないのに、ノートや教科書をとじてしまっている人もいました。わたしも、さっきから先生の話など耳に入らず、窓の外の雪ばかりに気をとられていました。今年になって何度かは降りましたが、きょうみたいに屋根が白くなるほど千葉県で降るということは、めったにないことなのです。

 初雪の時は別にして、雪の降る日に窓の外を気にしている雪国の子どもはいない。しかし、めったに雪など降らないところでは、なぜ雪が降ったことで授業に身が入らなかったのかを説明しないとわからない。そして、こう説明した後に、  
★その雪で思い切り大きな雪だるまが作れ、雪合戦ができるかと思うと、もうだまってはいられない気持ちになるのです。
などと、説明が入れば、雪国の子どもにも、ほかの地方の子どもにもよくわかる文章になってくる。また、
★玄関の戸をあけたとき、父のくつが見えた。なるべく足音を立てないように階段を上った。気づかれないようにしたつもりなのに、「浩代か。」とよばれてしまった。
と書いただけでは、なぜ気づかれないようにしなければならなかったのかがわからない。このような部分にも、説明を入れ、誰にでもわかってもらえる文章にしていかなければならないのである。
 この指導は
①日本中の人にわかるようにかけ。自分のまわりの人にわからないと思うところは、わかるように説明を書け。と呼びかける。
②あるいはまた、書き上げられた作品にそって、ここはわからない。もっと様子を書け。ここは説明を書けと呼びかけるのが効果的である。

8 説明的文章の中に具体的な事実を 高  

★私の母はとても忘れっぽい。さっきまで自分で持っていたものをすぐどこへいったと大さわぎをしてさがすくせがある。
と書いただけでは、ある程度まで忘れやすいくせのあることはわかるが、実際にあった実例を入れることによって、その説明を事実にせまらせることができる。そのためにここに示した文の後に、次のような事実を入れさせていくのである。
★ついこの間も、旅行に出かけるとき、「きょうは、忘れ物ないでしょうね。きっぷしまってあるの。」と私がたしかめると、「ほら、持っているわよ、」と、ハンドバッグから出して見せ、そのまま着物のたもとに入れてしまった。
 その後、五分もたたないうちにもどってきた母が、「きっぷ、きっぷ。」といいながら、きっぷをさがしはじめた。
 このように、何度かにわたる事実から母のくせを説明する文章の部分に、ある日ある時の具体的な事実を入れることで忘れっぽい母をよりいっそうくわしく説明することができる。
 また、説明だけで緊張感の乏しい文章の中に、具体的な事実による証拠を入れさせることによって、生き生きとした文章にすることもできる。
 この指導のためには、次のいくつかの方法が用いられる。
①説明の中に具体的な事実を入れて書き綴られた文章をプリントし、その部分を発見させたり、そのよさを話し合わせ、とらえさせる。
②構想を立てるときに、どんな具体例をどこに入れるかを、あらかじめ決めてから書かせる。
③「ついこの間も」「そういえば先日も」「きのうもそうだった」と具体例を入れるはじめの言葉の使い方になれさせる。

9 説明と描写を使いこなして  高 

 前述の6、7、8で身につけさせたことを駆使して、文章を書き綴るならば、書こうとすること、あるいはまた、書き綴り方が的確、具象性に富んだ作品になってくる。
 しかし、このような文章を書けるためには、すべての文章を書き綴ることの基礎である「ある日、ある時、あるところであった一回限りのできごとを、「~だった」「~ました」と書く力をしっかりとつけてやることである。
 その上で、より的確、具象的に書き綴るためには、どこを描写し、どこに説明を入れるかをすぐれた作品を用いながら指導していくのである。また、ある時には、これから自分が書こうとするものは、ある日、ある時のできごとを、「~だった。」「~ました。」という書き方で書き上げた方がよいのか。それともやや長い間にわたる、何回かにわたるできごとから題材化しそれを「~です。」「~ます。」「~である。」という書き方で書き上げた方がよいのかということも指導していくこと。
 この指導をしていくとき、次のようなことにも、留意していかなければならない。
①「現在形を入れる、説明を入れる、事実を入れる。」ということを、やたらに乱発させず、より的確、具象性に富んだ文章にするということを考えさせながら書き綴らせること。
②文と文のつなぎ具合に目がいくようにさせること。たとえば、
★そのとき、「そんなばかなことってあるか。」と、大きな目をぱちぱちさせながらどなった。わたしの父は、ほんとうにおこるといつもこうなるのだ。父がこうなったとき、今までだまってぬいものをしていた母が、・・・という「父がこうなったとき」のつなぎ具合にも目がいくようにさせたい。

Ⅳ 効果的な表現をさせるために

1したとおり、あったとおりに 低 

 効果的な表現をさせるということを低学年の指導として考える場合、子どもがしたこと、見たり聞いたりしたことを、出来事がおこった時間の順序に従って、「だった」「した」「ました」「でした」と書き綴らせていくことがその基礎になる。
 この場合にしても、子どもたちが書き綴る題材が大事にされなければならないことはいうまでもない。しかし、だからといって、低学年の子どもに、あまりにも深い題材について要求すると、綴り方=作文を嫌いにさせてしまうことになる。したがって、
① したことをしたとおりに書く。
② あったことをあったとおりに書く。
 こういうような広い題材を与えてやることがよい。このようにして、書く題材をとらえさせたときにも、いざそれを書き綴らせてみると、その題材に全く関係のないことが多い。こんな時には、文章の組み立て指導に力を注ぐことが有効である。その方法として、

(ア)一つの文章を線で表し、その事件に関係のないところをいろチョ ークで示してやるということ。
(イ)また、どの子も経験するような書き出しをあたえてやることもよ い。たとえば、「学校から帰ると」「夕食を食べた後」「朝、学校 に来るとき」などというようなものがそれである。
(ウ)子どもが書いた作品に脚注とか、頭注をつけて、「はじめ」「なか」「おわり」の部分を示してやることも、ひとまとまりの文章を効果的に書かせていく指導になってくる。

2 構想を考えて 中 

 今までに経験したことを、再現するように書かせる文章では、はじめのうちは、「いつのこと」「何のこと」「どんなこと」があったかいろいろと思い起こさせる。その中から、「この話を書こう」と、子どもが自分で決めるようにさせる。やがて学習が進めば、いつもいくつかの「話の種」を持っているようにさせたいものだ。そして、このような「話」には、ひとまとまりの「組み立て」があることを意識させるようにしなければ、よい文章は書けない。そのために次のようなことをしていく。
① 読み方指導で文章の「はじめ」「中」「終わり」の組み立てを意識させる。学年が進めば、「はじめ」にはど  の段落、「中」にはどの段落とどの段落「終わり」にはどの段落というように、文図などで示すことをしていく。
② 口頭で話をさせた後で、教師が、「今の話のはじめは、・・・中 は・・・終わりは・・・でしたね。」と、まとめていってやること もする。
③ 子どもの作品の鑑賞の授業で、取り立てて「はじめ」「中」「終 わり」を示してやることもする。
④ 文章を綴る前に、ごく大まかに、「はじめには○○、中には○○と  ○○、終わりには○○」というように、書くことをあらかじめ「構成  表」にまとめさせることもする。
⑤ 時には、いきなり会話から始まる文章や、部分的に時間の順序が 逆になっている文章や、説明が挿入されている文章なども示して、 「このような書き方もある。」ことをとらえさせる。
 ねらいのあるひとまとまりの文章を書かせるために、「長い題をつけさせる。」ということもよい。また、綴る前に「なぜこれを書くのか。それは、○○のことがあったから、そのことをこれから書く。」というように、「前書き」や「ことば書き」を書かせる方法もある。

3 表現を工夫して 中 

① 詩表現の場合には、「話し言葉」で直裁に綴らせることはあって も、散文では、きちんとした文章を書かせるようにしなければなら ない。
 中学年になれば、「ていねい体」(です。ます。ました。)ふつう体(だった。だ。た。)など区別して、意識的に、統一して使うようにさせる指導をする。
② 経験したことを思い起こしながら文章を綴っていくとき、そのこ とにぴったりとした言葉を選ぶことが、よくわかる文章を書くこと になる。
★ ぼくは、「これなあに。」と言いました。お母さんが、「「あじのフライよ。」と言いました。という風に、
 何でも口に出す言葉は「言いました。」一点張りでは、わかる文章にはならない。「聞く。」ことも「答える。」こともある。また「ささやく」ことも、「叫ぶ」ことも「どなる」こともある。「聞いた」ことも「聞こえたこと」ことも「聞こえてしまった」こともあるだろう。こ  れは文章の形式的な指導として行うのではなく、よく思い出して、ふさわしい言葉を吟味しながら使うことの指導なのである。これらは、読み方指導などの効果を生かして行うようにする。
③ 過去の事実をよく思い出しながら、再現するように書く方がよい のか、説明するように書く方がよいのかを意識して書かせるような 指導も必要である。「わたしのくせ」「家族のこと」「私たちのク ラス」などの素材ではどうしても、具体的な事実と説明とが適切に 組み合わされて書かれていた方がよい文章になるであろう。
④ 時には、自分たちの生活を手紙風に書かせるということも効果的 でよい。
⑤ 見出しをつけさせたり、箇条書きについて指導していくことなど もよいことである。

4 意識的に構想を立てさせる。中  高 

 構想・構成の指導は、一回限りのことを「~した。~した。」と書き進める文章を綴らせる中で、その基礎を育てる。それは、およそ、次のステップを踏んで進んでいく。
① したこと、あったことをその通りに
② 「はじめ、なか、おわり」いしきをじょじょにもたせていく。
③ 長い間、やや長い間にわたることを、順序を考えて
 これらは、いずれも時間の順序に従ってのものだった。これらの指導で、子どもらはじょじょにテーマ意識(これをこそ綴りたい)を強めてくる。そこで、意識的な構成と、取り組ませることになる。まず、一回限りの事象を、時間の順序を変えて、今ー少し前ーずっと前ー今。などと書き進める構成を要求していく。
 この指導の上に、総合的文章(長い間の経験をまとめて綴る文章)の構成指導へと進む。
① 「わたしの学級」には三つの欠点がある。とまず述べて、後に三 つを順次説明し、最後にまとめる形。
② 「父はこの頃つかれきってしまっている。」と書き出し、以下そ の具体的現れや原因を、さまざまな面から述べていく形。
③ 母の子ども時代の村と現在のそれとのそれとの違いを比べつつ、 現在のことを読み手にわからせていく形。
 具体的指導方法としては、
(イ) 構想カードに構成要素を書き、机上に並べさせていく。
(ロ) 構想表を書かせる、などがある。

5 手紙風・日記風。問答風に  高 

 小・中学校での作文指導の中心は「した、した文」「です、である文」であるが、表現を考えてこの文章を綴らせることは、子どもらの生活事実、事象に関する認識をより科学的に高めるのに役立つ。ひとまとまりの文章の部分にこれらを入れる方法もあるが、ここでは文章全体をこれらで綴っていく文章について述べる。こんな場合がある。
① 近頃の「わたしの家」の生活と家族の人間としての変化を、東京 にいる叔父に知らせる形で、手紙風に書いていく。
★ 「近頃、母も祖母もつかれた表情を見せることが多く、なり、農 業を捨てたいと考えているようです。」などと、書き進める文章。
② 長い間、やや長い間における人間・植物、小動物の継続的観察  を、日々、日記風に、記録と同時に自分の感じ、考えも交えて綴っ ていく。
③ 自らの発見・確認・要求・願望・批判などを効果的に要領よく表 現したいという時の問答風な文章。
★問 君が生まれたときの父母の生活は
 答 父は自衛隊に入っており、ほとんど家を空けていました。母   は、一人四、五アールの田を耕していました。
 などと、生い立ちを語るものもあろう。また
 問 あなたの班がまとまれない原因は、
 答 三つあると思います。一つはわたし自身の班長としての弱気で  す。・・・
 などという説明風のものもあろう。
 ここで注意したいのは、こういう文章を欲するほどに、子どもらの表現意欲、生活事実、事象に関する認識がふくらまぬ内は、いたずらに形式のみあたえてはならぬということである。

6 言葉や文を選んで 高 

 自分の経験や感じ、考えとかけ離れない表現、うそを書いたり大げさに書いたりしない真実性のある表現が、効果的表現の大前提である。真実性あってこそ効果性も生きる。これを強調しておく。その上で効果的表現をさせるための指導例をあげる。
① 人間の姿、様子あるいは、心理、思想等を、形象生豊かな言葉や、文を選んで表現させる。
★先生は、首を曲げ、口を結んで、「もう少し立ったら水素が出る よ。」といいたい様子で、ビンを上下に動かしたりしていますが、 落ちません。
② 他教科等で学んだ術語や専門用語を的確に使って表現させる。
 我が家の田んぼが草ぼうぼうになってしまっているのを描写し、「これも農民切り捨ての政策の一つの表れであろう。」と表現するなど
③ 構成に関わるが、過去形表現の間に現在形表現をはさむ。あるいは、その逆も効果的表現となる。
④ 事実・事象と離れず、よりたくみに表す比喩。
 効果的表現をすることにより、生活事実・事象に関する子どもらの認識は一段高められる。単語や文選びの指導はこの原則をふまえて行いたい。
 実際の指導は、帰納的な方法をとるとよい。たとえば①であれば、「この先生の描写は、先生の人間としての弱さまで描き尽くしている。」ことを話し合うとか、②であれば、「社会科の勉強を実際の生活と比べてしているし、そこで得た知識を実際の生活に生かしている。と意識づけるとかである。 また、文学作品の鑑賞、享受の指導を通して、形象性豊かな言葉、文の持つ魅力を味わわせる。説明的文章の読み方指導の中で、的確に使われている言葉、文の気品をつかませるなども役立つ。

Ⅴ より意識的な表現をさせるために

1 ただできごとを書くだけでなく 低  中 

 低学年でも、あったことをあったままに書き綴る力がついてきたならば、何かねらいのある文章が書き綴られるような指導もなさなければならない。
 だから、今度は、どこどこへいったからそのことを書く。何々をしたから、そのことを書くという今までの指導から一歩進めて、どこどこへ行ってそのときに、こんなことを思ったり、考えたりしたから、その思った通りかんがえたりした通りに書くとか、何々をしたそのときに、こんなことを思ったり考えたりしたから、その思ったり考えたりしたことを書くというような指導がなされなければならない。
 そのための指導として、
① 夢中になってしたこと
② 強く心を動かしたこと
③ 強く心に残っていることを題材として、選び出させる。
 しかし、一口にこのように言っても、低学年の子どもたちには、これはなかなか難しい。したがって、強く心を動かしたことを書き綴った作品をあらかじめ準備しておき、それを読んで聞かせた後に、「この作文では○○したことに強く心を動かしているのですね。」と言ってやったり、文集にのせた作品の後に、「この作文では○○のことが強く心に残っていたのですね。」と書き加えてやることをしながら、しだいに子どもに、そこに書き綴られているねらいや、テーマのようなものをとらえさせていく。
 さらにまた、ねらいのよくわかる作品を数多く読ませていくことも、この指導としては有効である。

2 今も、はっきり思い出せることを  中 

 子どもたちの会話を聞いていると、時には先を争うようにして、話し続けあうような場面に出会う。言いたくて、知らせたくて、じっとしていられないという気持ちの表れなのだ。 また、自由に書き綴る日記などを見ていると、いつもとは違って、長くくわしく、二、三時間もかかって書いたのではないかと思われるような文章を突然書いてきたりすることがよくある。
 朝、教室にはいると、「待ってました。」とばかりに、教師に話しかけてくる子もいる。そんな時、「いい話だなあ。それを今度の作文に書いてよ。」と言えば、作文言葉で話しかけてくる。Ⅰでも述べたように、言いたくて知らせたくてたまらないことを、書きたくてたまらないようにしむけることができれば、作文の内容はとても意識的になり、言いたいこと書きたいことのねらいが、はっきりと浮き出てくる。
 子どもたちが夢中になって語りかけてくる話の内容は、およそ次のようなものだ。
① 家族や近所の人、友達のことで今までと違ったことがおこったり 気づいたり、わかったりわからなくなったりして、心を強く動かし たこと。
② 近所や世の中のことで、いつもと違ったことがおこったり気づい たり、わかったりわからなかったりして、心を強く動かしたこと。
③ 身の回りの自然や、動・植物のことでいつもと違ったことがあっ たり、気づいたり、わかったりわからなかったりして、心を強く動 かしたことまた、自然の美しさや偉大さ、厳しさなどに心を強く動 かしたこと。
④ 学校で学んだり、テレビで知っていることを事実ではっきり確認 したり、調べてわかったり、かえって疑問になったことを話題にさ せる。

3 教科などで学んだことを生かして 高 

 教科学習の中で子どもたちは、人類の文化遺産である真理・真実を、知識やものの考え方として、系統的に学んでいく。それが十分でなければ、子どもの現実に対する認識も、したがって文章を綴る力も、伸びては行かない。
 だから、新しい知識の獲得によっておきた、現実に対する子どもの発見や疑問、批判・共感などを教師の方からの働きかけで、うんと書かせていく必要がある。たとえば、
① 社会科の憲法学習で学んだことを生かして作文を書かせる。
 憲法学習の終わった後で「わたしの学級の不平等」とか「母の基本 的人権」という題材で書かせるのである。その場合、大事なこと  は、事実をうんとおりまぜ、憲 法の条文の一つ一つの言葉に、中 身を詰め込むような姿勢で書かせることである。
  したがって、課題のあたえ方としても、「私の~」とか「母の  ~」というように、現実から離れないよう配慮する必要がある。
  なお、このような文章を書かせることが、逆に、生きた憲法学習 につながることは、いうまでもない。
② 自然発生的に教科で学んだ見方、考え方を生かして書いている  作文を大事にする。
  たとえば、「ファーブルの昆虫記」を学習した子どもが、そこで 学んだ知識や結論の導き方、観察の仕方、研究の進め方を生かし  て、家の庭で「みの虫の研究」をし、それを作文に書いてきたらそ れを学級の中に紹介し、励ましてやる。
  これらの指導の中で、子どもたちは、知識を現実に生かしていく 能力を、自分のものにしていく。

4 人間存在の本質的追求として 高 

  何を題材としても、生活者である子どもたちが、現実の中から、 自分の心と体でつかみ取ったものであるならば、それは何らかの形 で、人間存在の本質を追究した綴り方=作文だといえる。
  しかし高学年では、もっと意識的に、人間のあり方、生き方を探 ることをねらいとした綴り方=作文をどしどし書かせたい。たとえ ば、
① 自己の成長を振り返って書かせる。
  一生活者である自分を、一人の人間として、成長という観点か  ら、やや突き放して客観的に書かせることを大事にする。
  かなり長い年月にわたって、自分の成長を振り返り、その時々の 現実から学び取ったことを、改めて考え直し、見つめ直し、とらえ 直すという作業こそ、人間追求の原点だからである。
② 家族の歴史を書かせる。
  たとえば「母の歴史」を書かせた場合、今まで親としてしか見る ことができなかった母親を、一人の女として見つめ、描くことによ って、子どもたちは、生活している生身の人間の喜びや悲しみにつ いて、文字通り生きた勉強をするに違いない。そういう文章をもっ と積極的に書かせたい。
 なお、実際の指導に当たって、特に次のことに留意したい。
★心に残っていることを、年代別に整理し、その意味を考えさせる。
★「人間とは」などという論文風のものではなく、物語風な文章で書かせる。
★物語の読み取りで学習したことを生かす。

 千葉県 大池俊介   東京都 大石静子
 東京都 大須賀敬子  東京都 折居ヒロ子
 千葉県 木村英夫   東京都 斎藤邦衛
 東京都 関口敏雄   千葉県 武田和夫
 東京都 永易 実

 ※この冊子をまとめるにあたっては、国分一太郎・乙部武志両先生にご高閲いただき、ご指導をいただいた。

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