子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

会話について考える その3

会話について考える その3

★会話のはたらきを考える。高学年 その1

指導題目 一つの出来事の原因を推理して、いくつかの事実を確かめてから、一つの結論を出してみる。

浅間山の火山灰    緑小学校 5年 男子

「あっ、これふつうのほこりとちがう。浅間山の火山灰じゃない?」 ①
9月17日の朝、母がベランダでいいました。ベランダの手すりを見てみると、白い粉のようなものがうすく積もっていました。母は、
「ニュースで大手町まで火山灰が来たって言ってたから、ここまで来ててもおかしくない。」 ②
と言いました。ぼくは、
(本当かなあ。)
と、思いました。
 学校に行くとき、ぼくのマンションの玄関の前の共同廊下の手すりにも、同じものがうすく積もっていました。母は、
「昨日、管理人さんが来て、掃除したのに、もうこんなに積もってるってこと、やっぱり 灰じゃない?」 ③
と言いました。ぼくは、
(じゃあ、そうなのかな。)
と思いました。行く途中、広い範囲に灰が積もっていると思い、日本庭園の道路の境にある手すりを見てみました。すると、案の定、家にあったのと同じものが積もっていました。ぼくは、
(やっぱり。でも火山灰って、これしか積もらないんだな。)
と、思いました。学校の教室に行って、稲を外に出すついでにベランダに出て、手すりにいってみようと思って、教室に行きました。すると、もう稲は渡辺さんたちが外に出していたので、ただベランダに行くだけでした。ベランダの手すりを見ると、やっぱり白い粉が積もっていて、ぼくは、
(これは、もう火山灰に間違いない。)
と確信しました。春日さんに、
「ベランダの手すりに火山灰のようなものが積もってた。」 ④
と言うと、春日さんは、
「ここまで火山灰が飛んでくるわけがない。」 ⑤
と信じませんでした。家に帰って、母に、
「学校の日本庭園の手すりとベランダの手すりにも積もってた。」 ⑥
と言うと、母は、
「やっぱり。あれは間違いない。」 ⑦
と言いました。
 ここまで火山灰が飛んでくるなんてすごいと思いました。でも、近くの人たちは、もっと積もって大変だと思いました。

作品分析

「あっ、これふつうのほこりとちがう。浅間山の火山灰じゃない?」①ベランダに出た母親のひとことの会話を聞き逃さずしっかり受け止めて考えているところから書き始めている。見事な場面の切り取りにもなっている。ここでこの会話を聞き逃してしまったり、聞いていても反応をしていなければ、その後の話に発展しなかったに違いない。ベランダの手すりを見て、最初に発した母親の会話が、良いのである。だから、ここではこの母親の感性が会話となって表れているところが、大きな値打ちなのである。つまり、母親の生活の渋りも良いのである。それが次の作者の行動につながっているのである。
「ベランダの手すりを見てみると、白い粉のようなものがうすく積もっていました。」と作者は、この母親の会話を確かめている。母親がさらに「ニュースで大手町まで火山灰が来たって言ってたから、ここまで来ててもおかしくない。」②と言う推理をしているのも良い。その会話も聞き逃さずに作者は書いている。母親がニュースで大手町まで来たと言うことを覚えていたことが、この会話につながっているのだ。会話を発した母親、それを聞き逃さずこのように会話にして書いているところが実に良いつながりなのである。つまり、会話を通じて、親子のものの見方を深め合っているのである。だから、その母親の会話で、(本当かなあ。)と言う気持ちになってきている。
「学校に行くとき、ぼくのマンションの玄関の前の共同廊下の手すりにも、同じものがうすく積もっていました。」と、母親の2つの会話を思い出しながら、同じマンションの別な手すりにも目が行っているのが良い。相手の会話によって、自分の目で確かめを別の手すりで確かめている。2度目の確かめである。
「昨日、管理人さんが来て、掃除したのに、もうこんなに積もってるってこと、やっぱり 灰じゃない?」③母親の3度目の会話である。ここでは、前の日に管理人さんが来て掃除をしていたのに、「もうこんなに積もってるってこと、やっぱり 灰じゃない?」とだめ押しの会話である。この会話は、母親が管理人さんの掃除のことをきちんと覚えていて、ニュースで聞いたこととつなげながらの会話になる。母親の感性の良さが、ここでも発揮されている。この3つの会話から、(じゃあ、そうなのかな。)と、さっきの(本当かなあ。)より、さらに心が強く動いて言うこともわかる。それにしても、朝学校へ行く前の出来事を、その日の家に家に帰って書いた日記である。よくていねいに母親の会話を聞き逃さず覚えていて書いたものである。出来事の順に会話が並んでいるから、読み手は時間の経過にしたがってのやりとりであることがわかるのである。会話を書くと言っても、このように正確に順序制を大切にしながら書くことも要求される。
「行く途中、広い範囲に灰が積もっていると思い、日本庭園の道路の境にある手すりを見てみました。すると、案の定、家にあったのと同じものが積もっていました。」これは、母親から発せられた会話から3度目の確かめである。
「広い範囲に灰が積もっていると思い」と推理しながら確かめようとしてる。
「家にあったのと同じものが積もっていました。」と比べて考えているのがさらに良い。(やっぱり。でも火山灰って、これしか積もらないんだな。)と、その積もった火山灰の量も、比較して考えている。
「教室に行き、ベランダの手すりを見ると、やっぱり白い粉が積もっていて、」と、4度目の確認をしている。そこで、(これは、もう火山灰に間違いない。)
と確信している。友達の春日さんに、「ベランダの手すりに火山灰のようなものが積もってた。」④と、確信したことを伝えている。春日さんは、「ここまで火山灰が飛んでくるわけがない。」⑤と信じていない会話が返ってくる。
 家に帰って、母に、「学校の日本庭園の手すりとベランダの手すりにも積もってた。」⑥と、調べて確信を持てるようになった事実を伝えている。そのことに母親は、「やっぱり。あれは間違いない。」⑦と答えている。その確信を確認できた自分の行動と、母親の会話から、「ここまで火山灰が飛んでくるなんてすごいと思いました。」と結んでいる。
「でも、近くの人たちは、もっと積もって大変だと思いました。」と結んでいる。浅間山から遠く離れた自分たちの住む墨田区緑地域の所にも飛んできた火山灰は、近くに暮らしている人たちのことにも思いを寄せて結んでいるところが良い。
 何よりも母親の会話に、積極的に反応しているところが、この文章のもっとも大事なところである。最初は、半信半疑であったが、その事実を、何カ所かのちがった離れた場所でも、同じ白い灰を確認して、次第にその考えを確かなもにしているところにも値打ちがある。一つの事実だけでなく、他のことと比べて、同じ現象を確かめ、ますます最初の母親のひと言を、確かなもに確信していく。五感の一つである、目と耳を生き生きと働かせていたから、このような表現ができたのである。対象に対して、積極的に反応すると、生き生きとした作品になる。
 この作品から、会話をとってしまったら、全く説得力を持った作品にはならない。このように、会話をきちんととらえ、それを順序よくていねいに思い出しているからこそ、このような作品に仕上がったのである。

★会話のはたらきを考える。高学年 その2

指導題目 世の中の出来事に関心を持って、自分たちの生活とつながっていることを、具体的な事実と確かめてみよう。

選挙ポスター 墨田区立緑小学校  五年 男子

 今日の2時間目の社会の時間に、榎本先生が、参議院選のことを言いました。なので、
(そうだ。今日、板ちゃんとポスター見に行こう。)
と、思いました。
 4時頃に、板東さんと図書館前公園に行きました。いつも、塾に行くとき、通っているので、ポスターがあるのを知っていました。ポスターを見ると、9人のポスターがはってありました。ぼくは、
「天声人語にのってたんだけど、ポスターの名前とか文て、赤色が多いんだって。」 ①
と、言いました。板東さんは、
「ああ、そういうのあったね。」 ②
と言って、赤色をさがしました。すると、2段目の人と、「青島幸男」の「幸」の時が赤色でした。
(確かに当たっているなあ。)
と、思いました。青島さんのには、大きいはんこ見たいのが書いてあって、「年金完納済み」と、書いてありました。ぼくは、
(年金問題だからなぁ。)
と、思いました。ぼくたちが一番目に気付いたのは、「マタヨシイエス」と言う人のポスターでした。そこには、「小泉純一郎には、腹を切ってもらわなければならない。」などと、書いてあったので、ぼくは、
「ひでー、犯行声明みたいだよ。」 ③
と言いました。その時、選挙運動の車の音が聞こえてきました。ぼくは、みどり町公園の前にある工場の前に止まっている白い車を見て、
(あれかな?)
と思い、
「向こうだ!」 ④
と言って、板東さんといっしょに、ガードレールを越えて、車の所まで行きました。でもそれは、工場の車でした。音楽をならしながら走るパン屋さんの車も止まっていたので、
(おかしいなあ。聞き間違いかなあ。)
と思いました。でも、また音が聞こえてきました。それがどんどん近づいてきて、とうとう、「上田哲」と書かれた車が、北斎通りに、姿を表しました。上田さんは、ポスターに、「怒」と書いてある人です。ぼくは、板東さんに、
「ほら、怒だよ、怒。」 ⑤
と言いました。板東さんが、
「あっ、あそこにもポスターがある。」 ⑥
と気付いたので、
「選挙の車が通るかもしれないから、ここにいよう。」 ⑦
と言いました。青島さんのポスターには、
「青島幸男と行く、参議院見学ツワー(参加無料)」
と書いてあったので、
「これ、よさそうじゃない?」 ⑧
と言うと、板東さんは、
「でも、それ7月4日だよ。」 ⑨
と言いました.下を見ると「7月4日(日)」と書いてあったので、
(なんだ。無料だから気軽に行けると思ったのに。)
とがっかりしました。
 その後、縄で出来たピラミッドに登って、
「一番参議院議員っぽくないのはだれ?」 ⑩
と、板東さんに聞くと、
「マタヨシ。」 ⑪
と言いました。次に、
「一番嫌いな議員はだれ?」 ⑫
と聞くと、
「マタヨシ。」 ⑬
と言いました。次に聞いても、
「マタヨシ。」 ⑭
と答えたので、
「ビンゴ!」 ⑮
と言いました。でも、
(ちょっと批判しすぎたかな?)
と思いました。
(この中で選ぶとしたら、青島さんかな?)
と、思いました。

作品分析

 5年生を担任し、子どもたちとは、新聞の切り抜きを始めていた。心に残った記事を見つけ、その文にアンダーラインを引かせ、ていねいに読ませ、最後のコメントを書かせて
1週間に1度提出させた。わかりやすい天声人語や余録などのコラムも何回か読みあっていた。ちょうど都知事選が始まっていた。社会科の時間に、世の中のことにも関心を持とうと言って、ポスターの話をしたのであった。どんな人が立候補しているのかを見るには、学校の周りに掲示板があるからすぐわかるというような話をした記憶がある。その話を受けて、さっそく調べに行った時の出来事を日記に書いたものである。2人は、四谷大塚に週に何度か通う友達である。
「天声人語にのってたんだけど、ポスターの名前とか文て、赤色が多いんだって。」①
朝日新聞のコラム記事の内容をを覚えていて、友達の板東君にポスターの貼ってある掲示板を眺めながら伝えている。すると「ああ、そういうのあったね。」②と言って、赤色をさがしている。この会話のやりとりから、2人は、天声人語を読んでいることがわかる。しかも、ポスターには、赤い色が多いと言うことを読んで知っていることもわかる。
「赤色をさがしました。すると、2段目の人と、「青島幸男」の「幸」の時が赤色でした。」
と、記事に書いてあることが本当であることを見つけて、(確かに当たっているなあ。)と心の中で思っている。その後に、「青島さんのには、大きいはんこ見たいのが書いてあって、『年金完納済み』と、書いてありました。ぼくは、(年金問題だからなぁ。)と、思いました。」この頃、年金の未納問題が話題になり、国会などでも追及するような場面があった。そのことをきちんと知っているから、このように書き込んだのだろう。
 2人の会話から、掲示板に貼られたポスターのことを、次々と発展してみているところに、意欲制・積極性が読み取れる。
「一番目に気付いたのは、『マタヨシイエス』と言う人のポスターでした。そこには、「小泉純一郎には、腹を切ってもらわなければならない。」などと、書いてあったので、」という所に目がいっている。「ひでー、犯行声明みたいだよ。」③と自分の考えを主張している。
 そのときに「選挙運動の車の音が聞こえてきました。ぼくは、みどり町公園の前にある工場の前に止まっている白い車を見て、(あれかな?)と思い、」「向こうだ!」④と、音の聞こえる方へ行ってみる。この会話は、自分たちの行動するかけ声になっている。「それがどんどん近づいてきて、とうとう、『上田哲』と書かれた車が、北斎通りに、姿を表しました。上田さんは、ポスターに、『怒』と書いてある人です。」
「『ほら、怒だよ、怒。』⑤と言いました。板東さんが、「あっ、あそこにもポスターがある。」⑥」この二人の会話は、次にポスターに目がいっている。「選挙の車が通るかもしれないから、ここにいよう。」⑦と言って、その場で選挙カーを待つ行動に出ている。
待っている間に、再びポスターに目が行き「『青島幸男と行く、参議院見学ツワー(参加無料)』と書いてあったので、『これ、よさそうじゃない?』⑧と言うと、板東さんは、『でも、それ7月4日だよ。』⑨」この会話から、参議院見学ツワー(参加無料)で、参加してみようという気になっているが、日曜日は塾がある日なので無理ということに気がついている。「『一番参議院議員っぽくないのは誰?』 ⑩と、板東さんに聞くと、『マタヨシ。』 ⑪ と言いました。次に、『一番嫌いな議員は誰?』 ⑫と聞くと、『マタヨシ。』 ⑬
と言いました。次に聞いても、『マタヨシ。』⑭と答えたので、『ビンゴ!』 ⑮と言いました。」この会話は、ポスターを見ながら、『一番参議院議員っぽくないのは誰?』と楽しんでいる。最後に、自分たちが選ぶとしたらと考えて、(この中で選ぶとしたら、青島さんかな?)と自分が考えたことで結んでいる。
 ここに出てくる会話を全部なくしたら、そのときのようすは、ほとんど伝わってこない。私が授業中に話したことを、すぐに行動にしているのが良い。新聞のコラムの記事なども、会話のやりとりに出てくる。2人が、選挙ポスターに関心を持ち、たまたまであった選挙カーにも関心がいき、そこでのやりとりも、おもしろく伝わってくる。このように、会話は、そこにいなくても、その場に一緒にいて聞いているように、生き生きと伝わってくる。
 

★「会話」の役割。

①その場にいなくても、場面が生き生きと伝わる。
②会話によって、場面が切り取れる。
③会話によって、文章の締めくくりが出来る。
④会話をする話し手の顔の表情や声の強弱を表現することによって、会話に込められた気持ちや様子が伝わる。
⑤相手の会話から、そのときの気持ちを推察し、心の中で思ったり、考えたり出来る。
⑥会話をきちんと聞いていたかどうかは、そのときに耳がよく働いていて、しかもじっくり集中していたから出来たのである。
⑦会話の内容を正確に聞き取れることは、物事に積極的に関わっていたことになる。
⑧会話のしゃべった順序を、その通りに思い出せることは、作文の大切な基本である。
⑨最初の会話を聞き逃さず反応したことが、その出来事のきっかけになることがある。
⑩会話をしっかり聞いていると、相手の願いをきちんと達成できる。
⑪最初の会話を、どう受け止めようかと考え、そこから考え行動しようとする。
⑬会話を全部書き込むのでなく、一番大事な会話を選びながら書き込んでいるのである。
 以上のことから考え、会話は文章表現をする上で、基本中の基本になる。また、これから日記指導や作文指導を始めるときに、8つの大事な文章指導のキーワードがある。

文章を生き生きと書けるキーワード

(1)身のまわりの出来事で、心が動いたこと(ある日のこと)をえらぶ。
(2)したことの順によく思い出して「・・でした。」「・・・した。」と書く。
(3)いつ、どこで、だれが、何をしたのかがはっきりわかる文章にする。
(4)そのとき、自分が話したり、相手が話したりコトバは「 。」を使って文にする。
(5)そのとき、思ったり考えたりしたことは、(・・・。)を使って文にする。
(6)ものの形や色、大きさ、手ざわり、においなど五感(官)を働かせたことをよく 思い出して書く。
(7)そのときの自分のうごきや、周りの様子も書くようにする。
(8)自分がわかっていることでも、読む人が分かるように説明も入れて書く。

この中で、(1)~(3)までのことを教えたら、ただちに(4)の指導にうつることを、意識して指導させたい。

 ものごとに関わる意欲性・積極性・能動性・持続性が育つ。
「文章表現することが、子どもの成長発達に寄与する」「文章表現をすることが、子どもの認識諸能力を伸ばす」「認識諸能力とは、観察力・表象力・思考力・想像力(創造力)のことである。」(「いま、なにをどう書かせたいか」明治図書)
 会話をきちんととらえて、表現できるようになったら、その時に、心に残ったことを(・・・。)表現したり、周りの様子を書いたり、説明を入れたりして書けるようになる。

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