子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

君人の子の師であれば・国分一太郎著

君人の子の師であれば・国分一太郎著

 本書を、これまでに何回読んだだろうか。たぶん一〇回は超えていると思う。そして読むたびに、編集者である私も「教師になりたかった」と思ってしまう。
 本書は、一九五一年にまず東洋書館から刊行され、一九五九年に出版元が弊社に移ったあと、「新装版」「新版」と装いを新たにしながら一九八五年に最後の重版を行い、その在庫がなくなるまで読み継がれてきたものである。あまりにも古い本のことゆえ確かなデータは
残っていないが、たぶん弊社における累計販売部数は一番となるであろう。
 そのような本書を、二〇数年ぶりに復刻することにした。もちろん、理由がある。それは、本書を著した国分一太郎先生ほど、教師を「職業」として捉え、学校を中心とした地域コミュニティを意識した人はいなかったのではないだろうか考えるからである。
 かつて(一九五〇年代~七〇年代)、「でもしか先生」と呼ばれた時代があった。高度経済成長にともなって教師の採用枠が急増し、「ほかにやりたい仕事がないから先生でもやろう」
とか「特別な能力がないから先生にしかなれない」などといった消極的な動機から教師の職に就いた人がいた。
 しかし、一九九〇年以降、バブル崩壊や少子化に伴って教師の採用枠が激減したため、学校教育に対して強い熱意をもった者しか、高い競争率となった教師の採用試験を合格することができなくなった。そして今、イジメ、学級崩壊、モンスターペアレントなどが理由で、
教師になることを敬遠する風潮があると聞く。とくに、大都市においてそれが顕著であると言われている。
 確かに、近年は今挙げた言葉などが教育界を乱舞し、学校現場を取り巻く環境は決してよいとは言えない。それだけに、教育に携わっている人々のご苦労が多いこともよく分かる。
だからといって、様々なトラブルを閉鎖的な空間内で処理してしまう姿勢はいかがなものだろうか、と思う。
 著者は、「親たちが、かわいい子どもを、学校に出してよこすのは、小さい旅に出してよこすことだ」と言っている。そして、「せまい家庭という集団から、やや広い社会に、修業によこすのです」とも言っている。そう、「やや広い社会」に子どもたちは毎日来ているの
である。この事実を、教育界だけでなく、すべての大人が改めて考えなければならない。
 二〇一一年三月一一日に起きた東北大震災以後、「子どもたちのために」という言葉が流布し、「絆」が叫ばれている。もし、本当にそう思うなら、まず子どもが体験することになる「やや広い社会」の役割を追究し、少なくとも小学校区における地域のあり方を模索すべ
きであろう。言うまでもなく、未来社会を構成するのは現在「子ども」と称される人たちである。その子どもたちに、社会を構成するうえにおいで必要とされる知識や文化などを伝承していくために一番の役割を担っている教師の存在意義を、今改めて考え直すきっかけとな
ればと思い、本書を復刻することにしたわけである。
 なお、本書を復刻するにあたってはレイアウトが少し変わったことをお断りしておく。初版は活版印刷によって組まれていたわけだが、今回新たにデータ入力をして新組としたためである。また、旧版にはなかったが、本書に挙げられている人物に関しては簡単な紹介文を
巻末に掲載することにした。それ以外は最終版のままである。
ニューバージョンとなった『君ひとの子の師であれば』を読まれた方々の「未来」に、我が社としては期待したい。

 それにしても、こんな素晴らしい感性をもった先生に敢えてもらいたかったと、やはり思ってしまう。そんな国分一太郎の教育理念を受け継ぐべく、また、後進を育てたいとのことから、国分一太郎が創設して、乙部武志が継承した「綴方理論研究会」(代表乙部武志)をはじめ、これを母体として全国組織とした「国分一太郎『教育』と『文学』研究会」(会長・田中定幸)や「国分一太郎・こぶしの会」(会長・大江権八)などのグループが定期的に活動を繰り広げておられる。二〇一一年七月には、「国分一太郎生誕一〇〇年の集い」が生まれ故郷の山形県東根市において開催され、国分一太郎の赴任校であった長瀞小学校(現在の長瀞公民館)には記念碑が建立された。その碑には、国分一太郎直筆の、次の詩が刻まれている。(表4の写真参照)

 これらのグループの活動に興味をもたれ、国分一太郎の詳しい業績などを調べたい方々は、下記の住所に連絡していただきたい。
・国分一太郎『教育』と『文学』研究会事務局
  〒332ー0023川口市飯塚1ー12ー53 榎本豊方
・「国分一太郎・こぶしの会事務局」
 〒999-3737 山形県東根市大字若木5843の12 山田亨二郎方

 最後になりますが、本書を復刻するにあたって、著者のご長男である国分真一さま、「国分一太郎『教育』と『文学』研究会」の榎本豊さま、「国分一太郎・こぶしの会事務局」の山田亨二郎さまにお世話になりました。多くの資料などをご提供いただきましたこと、この場をお借りして御礼申し上げます。
 二〇一二年 九月        株式会社 新評論 編集部

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