子どもたちの文章表現指導を誰にでも出来る一般化理論の構築・えのさんの綴り方日記

31号

はじける芽31号

 季節感を大切にする事を以前のこのコーナーであつかったが、こういう作品が出てくると、ますますその必要を感じてしまう。都会の子が自然が失われて、なかなかそれに見合った作品が出てこなくなった。
 二十年前に「自然とともに」(国土社〉という本が日本作文の会より出された。高度成長期がかなり進んで、農漁村の人口がどんどん都市部に移動しはじめて十年位たった頃に出された。
 この後、田中内閣の列島改造で自然がさらにブルドーザーでこわされていく頃の事であった。自然がどんどん破壊されていく危機感もあって、その本が出されたのであった。日本全国の小学生の綴った詩や散文がたくさん載せられている。戦前からの作品も何編かあるが、おもに戦後二十五年間に綴られものが多い。ぶたや牛や馬などが出できたり、ひばりやめじろと出会ったり、ぐみや桑の実の甘さにひかれたりという作品が数多く見られる。まだまだ、子どもの生活の中の見近な所に、それこそ「自然とともに」ふれ合える生活がたくさんあった。今、農漁村の子も、都市の子もファミコンやテレピゲームに心をうばわれ、塾・おけいこにと通い出ている事には、あまり変わりないようだ。前回ふれたような仲間と心通いあうゆとりも乏しくなってきた。
 だからこそ、このような作品はじっくり読み合い、何をこそ大切にしていくべきかを
学ばせたい。飼い犬がいたからこそ、2人が自然への働きかけになるきっかけになっている。人工的に作られたものだが、近くに都市的公園があるのもうれしい。
 そこに二人が犬をつれて、紅葉の美しさに心をうばわれ色々と働きかけをする。そういう心のゆとりがある二人の生活そのものも、大いに大事にさせたい。紅葉の美しさは、遠くから見た方が良い。体験する中でわかった事が価値あることなのだと、本人ならびにクラスのみんなでしみじみ味あわせたい。

中台さんと、犬の散歩に大横川親水公園に行ったら、花みずきの葉が真っ赤できれいだったこと 柳島小 三年 女子

 一週間くらい前の水曜日、わたしが書道から帰って来たら、わたしの家でかっている白という犬がしっぽをふりながら、ドアにしがみついていました。書道についてきてくれた中台さんが、
「さんぼに行きたがっているよ。」
と、白の方を向きながらを言ったから、
「じゃあ親水公園にさんぽに行こう。」
と、わたしも白の方を向いて言いました。
 家を出て歩こうとしても、なかなか白がすすまないので、
「早く行きなさい。」
とおこりながら行きました。やっとついたら、公園の中がまっ赤にぬられたように、花みずきが紅ようしていました。
「わあ、きれい。」
と、草のにおいをかいでいる白を見ている中台さんに向かって言ったら、
「近くに行って見ょう。」
と中台さんが言いました。わたしたちは、橋をわたって花みずきの前で実をひろっていたら、中台さんが、
「あんまりきれいなはっばがないね。」
と、きれいな葉をさがしながら言いました。わたしは、
(前に榎本先生が、『きれいなはつばをひろったら、学校にもってきてください。』と言ったから、もって行くのかな。)
と思いました。わたしもさがしたけど、きれいな葉はありませんでした。わたしは
(遠くから見た時はきれいだったのに、近くから見た時はあまりきれいじゃない。)
と思いました。中台さんが、花みずきの実をニつくれたので、 「四つになったから、二つ川にながそうよ。」 と、白をなでていた中台さんに言いました。橋の上から実をやきゅうのボールをなげる時みたいにしてなげました。実は、ポチャンと川におっこちて、どんどん流れて見えなくなってしまいました。さかの近くで中台さんが、
「かず子ぼう、早くあっちへ行こうよ。」 と中台さんが言っていたから、わたしは走って行きました。かず子ぽうというのは、わたしのあだ名のことです。ほうおんじ橋をくぐって出てきた所には、もっといっぱいに花みずきがありました。そこを通ってふん水へ行ったら、水たまりに白が入って歩いたら、白の足あとがついていました。中台さんが、
「この足あとかわいい。」
と言いました。しばらくそこでふん水を見てから、アスレチックにいって遊んでいました。5時になったから、来た道を帰りながら遠くの方のはなみずきを見ながら歩きました。遠くの方のはなみずきは、夕日に当たって金色に光っていました。

生活態度・姿勢(認識のし方・操作)

○常へいぜいの生活のしぶり

○その時々の体や心の動かし方・行動 ○犬の事をいつもかわいがっているから、犬に目がいく。

●犬の動作をしっかり見ている。
●中台さんの散歩へのさそいに、すぐに賛成いて行く事にする。
●犬にも気がすすまない事もあるということがわかる。
○よく散歩に行っているので、人の取り扱いがうまい。
●公園の紅葉した花みずきに目がいき、感動する心がある。
●草のにおいをかいでいる白の事を見ている中台さんを、よく見ている。
●自分の感動を伝える、近くに来るよりきれいとわかる。
●理科の授業で言ったことをよく思い出している。
●自分も、きがして見てきれいな葉がないとわかる。
●中台さんの会話と、自分の行動の二つで考えをまとめる。
●おもしろい事を提案している。
●投げた実の後のことに、耳をかたむけ眼を使っている
●中台さんの次の提案に、『走っていく』ことで心がはずんでいるとわかる。
●たくさんの花みずきに目がむく。
●水たまりに入った犬のあしあとに、よく気がついている。
●また、ここではなれて遠くの花みずきに眼を向けて帰る。
○美しいものが、夕日でさらに美しいと感じる心。

表現の方法・技術

○文章の組み立て方。

●こまかい書きつづり方。

○書道から帰って来てからの出来事から始まっている。
●わたしの家でかっている白という犬と、犬の説明が書けている。
●しっぽをふりながらと、犬の様子が書けている。
●書道に一緒に行った中台ささんとの2人の会話のやりとりが書けている。
●犬の白が、すぐすすまないので、その時、おこりながら言った事を書いている。
●公園の花みずきが紅ょうしていることをきちんと書いている。
●おどろいたことが、会話にして書けている。
●中台さんのようすが書けている。‘
●その時、心に思った事が書けている。
●実は、花みずきの赤い実?
●中台さんの会話と、動作がきちんと書けている。
●その時、心に思ったことが書けている。
●自分のしたことが書けている。
●ここも、遠くからと近くから見たちがいを感じた通り書く。
●自分の会話、中台さんの動作をきちんと書いている。
●川に流すのは、野球のボールを投げるようにしたと書いている。
●川に落ちた音、流れた後、それぞれよく書いている。
●かず子ぼうの説明が書けている。
●他の場所には、もっとたくさん花みずきのあったことが書けている。
●犬の白の足あとまで書いている。
●びっくりした会話が書けている。
●時こくが書けている。どうしてわかったの?
○しめくくりが夕日に当たってと、なかなかすてきにまとめている。
1991年12月12日発行

自然とともに

 1年~6年まで6冊の本である。日本作文の会の編集委員の人たちを見ると、懐かしい人がたくさん出ている。その中心になってこの本を編集したのが国分一太郎さんだ。26人の名前が出ているが、半分以上の人たちは、もうこの世の人ではない。私が所属する『綴方理論研究会』の代表の乙部武志さんの名前も出ている。乙部さんが40才の頃だからみんな若かった。1969年発行になっている。私が、教師になった年である。
 私が最後に勤めていた学校が、統廃合になり、図書の本を処分することになった。古い本は、もったいないがすべて破棄と言うことになった。この本もその対象になって、積まれていた。私は、慌ててその本のひもを解いて、我が家に持って来た。改めて、読み直してみると、今の子ども達よりはるかに文章表現力も優れていることがわかる。題材も『自然』に限定しているからなおさらそう感じる。今の子ども達にこのような文章は、まず書けない。それは、自然そのものがなくなってきていることと、自然に眼を向ける心もなくなってきている。この本に出てくる子ども達には、『生活』がしっかり地に着いている。『絆』などと言う言葉を上から目線で作らなくても、みんなつながっている子どもや大人がそこで暮らしていた。
2012.3.22(木)

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